ペットボトル温灸がきちんと機能するんじゃなかろうかと思ったのは、学生時代に授業中に聞いた「たばこ灸」の話を記憶していたからです。火をつけた煙草を施灸ポイントに近づけたり話したりして棒灸と同じように熱を伝えるという方法なのです。
棒灸、もぐさを紙巻にして火をつけ、施灸する場所に近づけたり遠ざけたりして行う方法です。
日本では点灸や台座灸のほうが臨床で行われる頻度が高いですが、諸外国では棒灸のほうがポピュラーなのだそうです。
これは現在では考えられないことですが、喫煙者が世の中に大量にいたからこその方法です。私の子供のころ、成人男性と言えば喫煙者でしたし、もちろん女性だって普通に吸っていました。私の家族も全員喫煙者でした。
きっと皆さんは信じられないでしょうけど、喫煙車両でなくても在来線の客車は喫煙可能で、山手線ですらごく普通にタバコを吸っている人がみられるものでした。駅のホームの柱には一本一本灰皿が設えられており、飛行機の座席のひじ掛けにも灰皿、映画館の座席でも喫煙、トイレも喫煙可能で灰皿がついている、タクシーも喫煙可能でした。
こんな状態ですから、手軽な熱源として火が付いたタバコを使うことが可能だったのです。私も一瞬、「火が付いたタバコなら子供に使える?」と思ったのですが、副流煙!!!!!と思ってすぐにその考えは捨てました。
ですが、昭和の時代にはごく普通に火が付いたタバコを合谷にかざしていたわけです。それで効いていたわけで。必然的に、導き出される疑問は、「燃やすもの、なんでもいいんでは!?」というものです。
……いや、燃やさなくてもいいんじゃないのか。だって、世界には電子温灸器というものがあるもの。たばこ灸は燃焼させているけれど、電子温灸器は火すらつけていないじゃないか、と。
そうしたら、やはり論文がありました。
電子灸の施灸後の免疫機能への影響 (2)J-STAGEwww.jstage.jst.go.jp
それも、鍼灸師で知らない人はいないだろう、原 志免太郎先生が名を連ねた電気温灸器の論文でした。電気温灸器でもヘルパーT細胞を増やす、ないし活性化させるであろうという結論でした。そのかわり、4から8週間程度続けないとならないという話です。
あまり早急に結論付けるのはよろしくないのだと思いますが、おそらく、「施灸」という治療方法は、熱源を何に求めるかは任意であり、その熱の伝わりかたと、皮下に伝わる温度が必要を満たしているのなら機能する方法なのだと思うのです。
皮膚にやけどを起こさせる「有痕灸」と温熱刺激だけを与える「無痕灸」では少々作用が違っているだろうことは予測がつきます。これがものすごい差なのかどうなのかは、現時点では私には判断できません。とはいえ、電気であっても火力であっても、お湯を入れたペットボトルであっても、要件を満たしていさえすれば熱源としては機能するのは間違いないのではないでしょうか。