はじめまして!加畑聡子(かはたさとこ)と申します。
元々鍼灸師ではありますが、鍼灸医学の原典とされる中国古典『黄帝内経』の記載に魅了され、大学院に進学して博士(文学)を取得し、研究や教育にも取り組んでいます。
この場をお借りして、東洋医学の歴史や先人の事績についてご紹介させて頂けたらと思っています。
「なぜ今の時代に、古くからある東洋医学が必要なの?」
「医療に歴史や古典が関係あるの?」
「東洋医学は科学的に証明されているの?」
そう思われる方は多いでしょう。
私自身も、20代の頃に「病院に行ってもわからない」「様々な治療法を試しても治らない」症状に悩まされるまでは、鍼灸治療を受けたことがなかったですし、ましてや鍼灸師になるなんて、夢にも思っていませんでした。
なぜ、いま東洋医学なのか――
私なりに考えていることを、歴史的背景を踏まえてご紹介したいと思います。
1868年の明治維新以降、政府の国策により、様々な分野において、西洋の技術や思想が受容されました。
医学もその1つであり、1872年の学校教育に関する制度を定めた「学制」発布に遅れること2年、1874年に医療制度や衛生行政に関する規定を定めた「医制」発布により医学教育が再編成されました。
その結果、医師免許取得のための教育及び試験内容が現代西洋医学に限定されたことにより、東洋医学の地位は凋落したといえるでしょう。
その後、現在に至るまで、150年もの年月をかけて科学技術と結びついた現代医学は、目覚ましい進歩を遂げることになります。
抗生物質やワクチンの開発、臓器移植、再生医療、遺伝子治療などの先進医療は、人々の健康と寿命の延伸の可能性を大きく広げました。
今もなお解明されていない難病や症状に苦しむ方々のためにも、今後も進化し続けることを願ってやみません。
しかしながら、その一方で、現代に生きる私たちは何か大切なものを忘れてしまっているようにも感じています。
それは、近代以前まで長い年月をかけて発展し、興隆し続けてきた伝統医学のことです。
伝統医学とは、三大医学とされる中国医学、アーユルヴェーダ医学、ユナニ医学をはじめとする、世界各地に根差しながら発展した医学を指します。
東洋医学を例に挙げると、少なくとも3000年もの歴史があることがわかります。
その長い歴史の中で、先人たちは、古代中国から受け継がれてきた書物に基づき、親試実験を繰り返しながら試行錯誤しつつ構築してきた学と術を伝承することで、東洋医学を発展させてきました。
つまり、東洋医学は、長い年月をかけて蓄積された先人の偉業によって培われてきた経験医学なのです。
そのような先人たちの想いと知識が詰まった医学を無為にするのは、とてももったいないことだと常々感じています。
その例を挙げると、東洋医学の特徴の1つに、“天人合一(てんじんごういつ)”という考え方があります。
現代医学が人体を細分化する“ミクロの医学”であるのに対し、東洋医学は内外のバランスを大切にする“マクロの医学”であるといわれています。
東洋医学では、自然現象が大宇宙であるのに対し、体内の組織や器官を、ひとつのつながりをもった宇宙のような統一体とし、小宇宙に例えて考えます。
このように、宇宙や自然を指す天と人は相応し、一体であるとする中国の思想を、“天人合一”と呼びます。つまり、人は大自然(大宇宙)の恩恵によって生きているのであり、抗わずに寄り添って生きていくことが大切なのです。
こういった先人の智慧には、現代に生きる私たちが忘れてしまっているものがあるような気がしてなりません。
東洋医学的な考え方に依れば、自然に抗って生きることは、心身の不調を引き起こす原因にもなります。
確かに、現代における科学に基づいて証明された医学からすれば、経験医学が非科学的に映るのは仕方ありません。
もちろん、現代医学で治る病気であれば、標準治療を受けて頂くことをお勧めいたします。
しかしながら、もし、病院に行っても治らない、わからない症状にお悩みでしたら、ぜひ一度、鍼灸や漢方などの東洋医学的な治療を試してみてはいかがでしょうか。
東洋医学を通じて、心身ともに健康を保つヒントになる、先人の智慧に出逢えるかもしれません。